AM2:11
すべての輪郭がはっきりとした夜だ
私の頭は冴えていた
酩酊した恋人を余所に
久し振りにアルバイトを始めた
週に3日4時間程度のスナックのアルバイトだ
スナックの経験はあるけれども
まだあんまり知らない町の
まだあんまり知らない店の
まだあんまり知らない女の子たちとお客さま
正直結構辛い
好きなひと以外に何を言われても何も思わない私が既にストレスで胃をやられている
好きなだけでは好きなひとと一緒にはいられない年齢になってきた
生活には当然お金がかかる
取り敢えず半年は頑張ってみる
愛想笑いが得意で救われた
眠れない夜は続く
AM2:26
初夏の風に攫われて君は消えた
君の匂いが残るベッドシーツ
ふたつ並んだ歯ブラシも
もうこの部屋では見ることがないと思うと
長い睫毛は影を落とす
未練なんて
ひとつもないのに
さみしさだけがひとり歩きして
呆気ないんだね
こんなことなら
ギターなんて弾けなきゃよかった
幼い愛憎は揺れる
ままごと遊びだったかもしれないけれど
君がいる生活を守りたかった
致し方ない理由だって分かってる
それを否定するように
午前2時
おやすみなさいの言葉を放った
届かなかった言葉
虚しさだけが宙を舞う
私もこの部屋には帰らない
もう帰らない
さよならって言えたらよかった
煙草の煙が目に染みる
AM2:33
ああまた君の季節が来たのだと桜の開花予報を聞いて思った
会いたいと書いて送らなかった
新しく来る春に君の姿が無いのはもう慣れたけれど
色付かない桜は味気ない
愛について考えるのは貴族の特権なので辞めることにする
私は労働に忙しいのだ
桜が散ったら忘れちゃうけど
大好きだったな
AM0:39
「明日自殺するから」
Marry Meの瓶を叩き割ったら君のことを思い出してほんのすこしだけかなしくなった
君が現れたとき世界は逆回転を始めて私はそのことに酷く傷付いた
君を絶対に許さない
カミサマの悪戯だとしたら趣味が悪過ぎると思う
薬指の指輪が抜けない
切り刻んで赤く染めた運命
ごめんね
君のことが好きだったよ
傷付いてほしい
さよなら